WTWの光学式DO計「FDO」の測定原理

蛍光式DO計の測定基本原理

(分子・原子・原子核等の量子力学視点で)物質が、熱や化学反応、電場・磁場等の外部エネルギーを受けてエネルギーが高いレベルにあることを励起状態にあるといい、逆にエネルギーレベルが低く、物質が安定的な状態を基底状態と呼びます。ある種の物質はエネルギーを受け取って励起された後、そのエネルギーを特定波長の光として放射するものがあり、その様な光をルミネッセンス(luminescence)と呼びます。広義にはルミネッセンスを蛍光と呼びますが、蛍光はリン光よりも減衰時間が早く、励起源からのエネルギー供給が止まると発光もすぐに止まる性質があります。

基底状態にある蛍光物質に励起光源からの光が照射されると、この蛍光物質は励起状態になりますが、蛍光を発して元の状態(基底状態)に戻ろうとします(図1)。

このとき発光する蛍光の強度と、蛍光が減衰する早さは溶存酸素濃度により妨害を受けて変化します。すなわち、溶存酸素濃度が高いほど、蛍光発光強度は小さくなり、また減衰時間は早くなります(蛍光維持時間が短くなる)
蛍光式DO計はこの様な蛍光発光が溶存酸素濃度により影響を受ける現象を応用しています。すなわち、励起光源からの光エネルギーを受けて蛍光物質から発光した蛍光を検出器(フォトセル)が受け、そこに発生する電気信号を溶存酸素濃度に変換するわけですが、一般的な蛍光式DO計においては、励起光照射により蛍光物質から放射される蛍光の発光強度または発光維持時間(減衰時間)を測定することが行われています。

図1 基底状態と励起状態、蛍光発光

しかしながらこの方法では以下の様な点が問題になります。

励起光源が劣化すれば、それに応じて蛍光の発光強度も変化する。

フォトセルもその受光感度が時と共に変化する可能性があるのでDO測定値のドリフトに繋がる。

蛍光物質面に汚れが付着すれば蛍光強度が変わる。

蛍光強度がゼロになるまでの時間(消光時間 = ゼロ点)を正確に計測することは困難である。ゼロ点に代えて蛍光強度が初期値の1/2や1/eの強度に減衰するまでの時間を測定するとしても、発光強度の減衰パターンは種々の外乱により変化するので測定誤差の要因となる。

この様に蛍光の強度や蛍光維持時間を測定する方法では、種々の要因により測定誤差が生じ、また時間と共に測定ドリフトが起きる可能性があります。

この問題に対応するために、WTWのFDOでは蛍光強度も蛍光維持時間もDOを測定するためのパラメータとしては使用しておらず、その代わりに励起光が発光して蛍光が発するまでの時間のずれを測定する「位相測定法」によってDO値を求めています。

 

無酸素状態における蛍光が発するまでの時間をT2とし、酸素が存在する条件下でのそれをT1とすればT2 > T1であり、この時間の違いがDO濃度に換算されます。

位相測定法による光学式DO測定

蛍光発光を評価する最も簡単な方法は発光強度を測定することです。光学式DOセンサーの場合、酸素濃度が高いほど蛍光の発光強度が弱くなります。発光強度を測定する方法は前述のように種々の妨害を受けやすいので酸素濃度測定のためには使うことができません。その代わりに、蛍光が減衰する時間を酸素濃度評価に使うことができます。蛍光が減衰する時間とは、励起光がフラッシュした後に発光した蛍光の強度がどんどん減少していく時間のことです。そして都合がよいことにこの減衰時間は蛍光の初期強度と無関係です。

 

図2の紫色の曲線を見てください。減衰時間は、発光強度が例えば初期値の2分の1に落ち込むまでの時間として示されます。青色の曲線で示される様に、蛍光活性が劣化した蛍光物質においても、減衰時間tdは同じであることがわかります(すなわち初期強度の2分の1になる時間tdは同じです)。
 
励起光光源が古くなった場合も同じことが当てはまります。だから励起光光源の違いは蛍光の評価に影響を持ちません。減衰時間は酸素濃度の違いだけで変わってきます。図3にその例が示されています。減衰特性は酸素濃度の高低により変化し、それによって減衰時間はtdl、tdhのように変わります。この特性はStern-Volmerの式によって説明されます。

図2:蛍光発光の初期強度が異なっても減衰時間は同じ

図3:酸素濃度が変われば減衰時間も変わる

この方法は、蛍光強度が初期値の2分の1になる時間以外の他の値も使われます。よく使われる値として1/e(eはオイラー数 = 自然対数の底)があります。

しかしこの方法は信号にノイズが非常に入りやすく、減衰時間評価を難しくするために、まだ本当に用いられる方法ではありません。WTWの蛍光式DO計FDOではこれに代えて位相測定の方法が取られています。これは減衰時間を位相シフトの形で測定するものです。図4に示されるように、励起光は1回の発光ではなく、正弦波を持つ連続照射です。発光した蛍光が減衰していく性質が蛍光発光のずれを引き起こします。

酸素濃度が低ければ低いほど位相のずれが大きくなります(酸素濃度が低いほど、励起光を受けた蛍光物質が蛍光を発するまでの時間のずれが大きくなります。図4でT2 > T1)。

 

励起光の強度と蛍光の強度は全く異なるものであり、また酸素濃度によっても変わるものですから、実際の蛍光発光の位相のずれは図5の様になります。 

図4:位相測定

図5:各信号波形

位相のずれをどのようにして検出するかの正確な方法はご紹介することができません。しかし、信号はいくつかの正弦波の区間を平均して全体として測定されていることが重要なことであることを申し添えたいと思います。ゼロ交点や限界値のような特別なポイントを求めることは行いません。WTWのこの方法は広範囲において振幅(発光強度)とは関係なく機能するものであり、一般の蛍光式DO計との大きな違いであります。