リアルタイムリリース試験(RTRT)とは?
製薬用水の品質をリアルタイムで分析評価を行い、即座にリリース(出荷)するための試験方法です。リアルタイムリリース試験(Real Time Release Test)の頭文字を取って「RTRT」とも呼ばれています。
従来のラボベースのTOC&導電率測定と比較して、サンプリングの手間が省け、リアルタイム分析でOOSやOOTを検出して是正処置を行うことにより、リスク・工数・運用コストの削減が期待できます。またリアルタイムでプロセスを監視・制御することで製造製品が規格を満たしていることを評価でき、製品出荷までの待ち時間を大幅に短縮します。

OOS、OOTとは?
OOSは「Out of Specification:規格外試験結果」を意味します。試験結果が事前に定められた規格や基準を外れている場合を指します。例えば、薬の成分濃度が規定範囲外であった場合、そのロットはOOSとされ、出荷できません。
OOTは「Out of Trend:傾向外試験結果」を意味します。これは、試験結果が過去のデータの傾向から外れている場合を指します。規格外ではないものの、通常の範囲から外れているため、将来的に問題が発生する可能性があると判断されます。


プロセスに異常がないときの測定データと比較し、プロセスの状況を見極めることが大切です。OOTを早期に検出して対処することで、OOSを予防することができます。
リアルタイムリリース試験に切り替えるメリット
製品出荷の迅速化:
オンラインTOC試験による迅速な測定と評価により待ち時間を大幅に短縮
効率の向上:
リアルタイムによる即時の意思決定とプロセス管理が可能
品質管理の強化:
継続的なモニタリングによる生産全体で一貫した製品品質を確保
法令遵守:
リアルタイムリリース試験に関する世界の薬局方ガイドラインに適合
廃棄物の削減:
問題の早期発見により、規格外バッチの生産を防止
プロセス効率が上がる理由は?~プロセス分析技術(PAT)とリアルタイムリリース試験(RTRT)~

PATとは:
PATはリアルタイムの測定データを活用して、プロセスの設計、分析、管理を行い、製品の品質を保証するプロセスです。PATを採用してTOC&導電率をリアルタイムにテストすることで、製薬用水設備を最適化できます。
RTRTの実施:
PATによって得られたデータを基に、製品が規格を満たしていることをリアルタイムで確認します。これにより、従来のようなバッチごとの試験を省略し、迅速に製品を出荷することができます。
Pharma 4.0適応に向けて
Pharma 4.0は、製薬業界におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する概念であり、工場作業の業務効率化や生産性・品質向上の実現(スマートファクトリー)を目指しています。リアルタイムリリース試験は、データインテグリティ要件に一致する正確で堅牢なデータを確保しながら、プロセスの理解・制御・効率向上に伴うプロセスの最適化を可能にします。Pharma4.0の一環として、リアルタイムリリース試験がどのように適応されるかを解説します。
データの統合と分析:
リアルタイムリリース試験によって得られるリアルタイムデータは、ビッグデータ解析やAI技術と組み合わせることで、製造プロセスのさらなる最適化と予測分析に役立てられます。
スマートファクトリーの実現:
製造ラインの機械やシステムがネットワークで接続され、リアルタイムでデータを共有することでスマートファクトリーの実現が進みます。
柔軟な生産体制:
製造プロセスの柔軟性が向上すると需要の変動に迅速に対応し過剰生産等を防ぎ、廃棄物・廃棄コストの削減にも繋がります。
法令遵守の強化:
データの透明性とトレーサビリティが向上し、法令遵守が強化されます。

リアルタイムリリース試験は、製薬業界のデジタルトランスフォーメーションを支える重要な技術であり、
Pharma 4.0時代への適応に大きくかかわってきます。
リアルタイムリリース試験を成功させるためには?
ラボベースの試験を行っていた場合、リアルタイムリリース試験を導入するには設備の見直し、システムの統合、データ管理など新たに準備する必要があります。
リアルタイムリリース試験を実装するためのプロセスは、5つのフェーズに分けられます。
プロジェクトの範囲と原則を定義
リスク評価
現在と将来の状態を評価、測定技術の選択、将来のオンライン計の設置場所
実装
将来の状態のバリデーション、分析法の切り替え、分析法のバリデーション、ポイントオブユース(POU)の比較検証
レポートとデータ処理
データ処理/警告、アクションレベルとアラートレベルを設定
メンテナンス
問題発生時の対応方法を設定、保守メンテナンス、OOSの調査手順
「分析法のバリデーション」の重要性
PAT(プロセス分析技術)を最大限に活用するためには、適切な測定技術を選択し、薬局方やICHの要件に従った方法で分析法バリデーションを実施する必要があります。
ラボベースの試験方法をオンラインベースのリアルタイムモニタリングに移管する場合、試験方法の同等性の検証や比較検証が必要です。この検証では、オンライン試験の結果が従来と同等以上に信頼できることを証明することが求められます。そのためには、分析法移管のための実行戦略を作成することが重要です。

分析法バリデーションが実施されていないと、「分析方法を移管した後に得られるデータの価値」が低くなってしまいます。例えば、実施の過程で温度やサンプリング方法の違いなどによって、ラボベースとオンラインベースの試験結果に差異が出ることもあります。このような場合、その差異が許容範囲内であるかを評価し、正しく認識することが分析方法を移管する際に必要です。
日本薬局方に適合しないオンラインTOC計がある!?
日本薬局方 一般試験法<2.59 有機体炭素試験法>
有機体炭素試験法では、水溶液中に存在する有機物を酸化分解し、生成する二酸化炭素を測定するためのTOC計の要件が規定されています。
TOC計は二酸化炭素分離部を持つこと、フタル酸水素カリウムを用いて校正を行うこと、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを90%以上の回収率で検出できることなどが要求されています。
製薬用水向けオンラインTOC計では一般的に導電率測定方式が採用されています。一般的な導電率測定方式のTOC計は二酸化炭素分離部を持たないため、日本薬局方の要件を満たしません。製薬用水システムでは条件付きのTOCモニタリング用途に限られ、リアルタイムリリース試験には適さないことに注意が必要です。

導電率測定方式では、有機物の酸化分解により生成する最終の分子種は、水と二酸化炭素に限定されている必要があります。しかし、試料によっては、有機物を酸化分解すると測定を妨害するイオン種が生成されることがあります。
例:イオン性有機物(ジクロロメタン、ブロモホルム等)→ハロゲン(Cl-、Br-等)
窒素、硫黄、リンを含む化合物→硝酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン
日本薬局方の「参考情報 GZ. 4.5.2 有機体炭素(TOC)を指標とするモニタリング」において、二酸化炭素分離部を持たないTOC計を用いた場合の製薬用水システムのリスクについて注意喚起がされています。
イオンの干渉を防ぎ、正しく測定するためには?
正確なTOC分析のためには、二酸化炭素のみを選択して測定することが重要です。妨害イオンの影響を受けずに二酸化炭素のみを測定する方法として、ガス透過膜式導電率測定方式があります。この方式は、試料中の有機物を酸化して発生した二酸化炭素をガス透過膜によって分離して測定する技術です。
直接導電率測定技術は、二酸化炭素を試料水から分離せずに測定した有機物の分解前後の導電率の差からTOCを求めるため、妨害イオンの影響により測定精度が低下し、マイナスまたはプラスの影響を受けるリスクがあります。
■二酸化炭素非選択式:直接導電率測定方式


■二酸化炭素選択式:ガス透過膜式導電率測定方式

Sievers が提案するリアルタイムリリース試験
Sievers TOC計 M500
Sieversの長年の無試薬型「ガス透過膜式導電率測定技術」を発展させたオンラインTOC計です。従来の“精度” ”再現性” ”安定性”を継承しつつ、迅速測定とデータ管理機能の強化を実現しました。
各国薬局方に適合(日本薬局方 <2.59 有機体炭素試験法>、USP <643>、EP 2.2.44)
二酸化炭素のみを選択的に測定するため、共存イオンの干渉を受けない
21 CFR Part 11に基づくデータインテグリティの要件に対応
分析法バリデーションをサポート

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