分析の基礎知識「BOD」

BODとは、Biochemical Oxygen Demand の略で、生物化学的酸素消費量と呼ばれる。水中の有機物が好気性微生物によって安定した物質まで酸化分解するときに消費される酸素量で表される。BOD値が高いということは、水中に有機物が多く含まれており、これらの有機物を分解するのに多くの酸素を必要とすることから、BODは有機汚濁の指標となる。

1.公定法の位置付け

JIS K 0102 工場排水試験方法

2.概要

BODは、水中の好気性の微生物の増殖時にエネルギー源として摂取される有機物の濃度がどの程度あるかを意味するもので、水中の有機物の全量を知る直接的な指標にはならない。この値の大きい排水を公共用水域に放流すると、水中の溶存酸素の欠乏を招き、自浄作用を損なう結果となる。

一般にBODは、炭素系有機物で好気性の微生物によって分解されるものが主である。

炭酸系有機物の約70%が分解するには、20℃で5日間必要とされる。この時点では測定値が安定して、再現性のよい結果が得られるとされている。このため、BODの標準的な試験方法では、希釈法によって5日間の溶存酸素の消費量を測定する。

希釈法は、試料が公共水域に排出されたときに溶存酸素を消費する状態に最も近い条件と考えられ、このため国際的にも標準法とされている。わが国の公定法でのBOD試験も希釈法を指定している。

3.公定法にによる測定

公定法によるBODの測定は20℃で5日間培養し、培養前の溶存酸素量と5日間培養後の溶存酸素量を溶存酸素計で測定し、その差から酸素消費量を求めてBOD値を算出する。公定法による測定では試料の希釈操作や溶存酸素を培養の前後に測定する操作があり、煩雑で熟練を要する。

BOD試験の基本的な操作は、次のようにして行う。試料を希釈水(または植種希釈水)で適当な倍数で希釈し、希釈試料をふらん瓶に分注し培養前の溶存酸素と培養後の溶存酸素を測定する。試料の希釈にあたっては、培養前後の溶存酸素の消費量が40~70%に入るように試料を希釈しなければならない。なお、植種希釈水を用いた場合には、植種補正を行う必要がある。

試料の取り扱い

この試験は、試料採取後直ちに試験する。直ちに試験ができない場合には、試料を0~10℃の冷暗所に保存し、できるだけ速やかに測定する。測定する際は、試料を恒温水槽等で20℃に戻した後、測定に供する。

試料の前処理

試料に酸、アルカリ、残留塩素などの酸化性物質が含まれている場合には、あらかじめ試料の前処理を行った後、稙種希釈水を用いて試料への稙種を行う必要がある。溶存酸素が過飽和の状態にある場合は、温度を約20℃に調節して過剰の溶存酸素を除去し20℃の酸素飽和量にする必要がある。

希釈水の調製

希釈水は希釈試料の調製に用いるが、希釈試料中の好気性の微生物を正常に活動させるための栄養塩類の添加とpH調整の役割がある。すなわち、希釈水の調製にあたっては、溶存酸素を飽和にさせた水1Lに対しリン酸緩衝液(A液)、硫酸マグネシウム溶液(B液)、塩化カルシウム溶液(C液)及び塩化第二鉄溶液(D液)を各1mLずつ加える。

植種希釈水

試料中には、適量の好気性微生物と溶存酸素とが存在しなければ生物化学的反応が生じない。したがって、好気性微生物が存在していない試料の場合は、試験に先立って好気性微生物を添加する必要がある。これを「植種」すると称している。これには植種液の適量を希釈水に添加して植種希釈水を調製する。

植種液

植種液としては、下水の上澄み液、河川水、土壌抽出液などが用いられる。

試料の採取量

BOD試験で最も重要なことは、試料を希釈水(または植種希釈水)を用いて適当な希釈倍数で希釈して希釈試料を調製することである。希釈試料は20℃で5日間培養する間に、希釈試料に含まれている溶存酸素量の40~70%が消費されるように希釈したものが、もっとも正常に好気性微生物の活動を促し、十分に酸化分解された結果を示す。したがって、BODの試験では、同一の試料について段階的に希釈倍率が異なる数種類の希釈試料を調製し、培養前及び培養後の溶存酸素量(D1、D2)を測定し、(D1-D2)×100/D1が20℃の飽和溶存酸素量(8.84mgO/L)の40~70%(3.5~6.2 mgO/L)範囲内にある希釈試料の結果を用いてBOD値を算出する。

試料のBOD値が予想できる場合、採取する試料量V(mL)は、下記の式から求めることができる。なお、最終液量は1Lとする。

培養

希釈試料をあらかじめ20℃に調節し、光を遮断した培養器に入れて5日間培養する。

植種補正

試料を植種希釈水で薄めて希釈試料を調製した場合には、試料と並行して植種に用いた植種液のBOD値を測定して植種補正を行う。

BOD値の算出

培養前後の溶存酸素量から(イ)、(ロ)の式より試料のBOD値を算出する。

(イ)植種を行わないとき

(ロ)植種を行ったとき

BOD:生物化学的酸素消費量(mgO/L)

D1:希釈試料を調製して15分後の溶存酸素(mgO/L)

D2:培養後の希釈試料の溶存酸素(mgO/L)

P:希釈試料中の試料の占める割合
B1植種液のBODを測定する際の希釈した植種液の培養前の溶存酸素(mgO/L)
B2:植種液のBODを測定する際の希釈した植種液の培養後の溶存酸素(mgO/L)

f:x/y
x:試料のBODを測定する際の希釈試料中の植種液(%)
y:植種液のBODを測定する際の希釈した植種液中の植種液(%)

希釈水の調製

植種希釈液

BODの測定操作フロー