文献・資料
分析の基礎知識「残留塩素」
残留塩素とは
上下水道や各種用水では生息する微生物や菌類などを死滅させるための殺菌・消毒のために塩素処理を行っています。塩素処理を行った用水には塩素を多少残存させておかないと処理後に再度微生物や藻類、その他が生息して汚染します。特に水道水においては残存する塩素を残留塩素と呼んでこの下限を規定しています。
残留塩素とは、塩素処理後の水中に残っている酸化力を有する塩素(有効塩素)のことで、遊離残留塩素(次亜塩素酸や次亜塩素酸イオン)と、結合残留塩素(アンモニアや有機性窒素化合物等と結合した塩素、例えばクロラミンなど)があります。なお、塩素イオンとは化学的に性質が異なります。
水道法では、水道水の消毒を行い給水栓(蛇口)で残留塩素0.1mg/L(結合残留塩素では0.4mg/ L)以上、病原生物による汚染のおそれがある場合は0.2mg/ L(結合残留塩素1.5mg/ L)以上保持するように塩素消毒をすることが義務づけられています。
残留塩素は塩素臭があるほか、水道水源の汚濁化に伴う塩素処理によって、カルキ臭、トリハロメタンなどの発ガン性物質を生成することも指摘されているため、高度処理(オゾン処理や膜処理など)の導入により塩素の低減を図っている浄水場も増えてきています。
参考:代表的な塩素剤(現在の主流は次亜塩素酸ナトリウムの注入による方法)
①次亜塩素酸ナトリウム
②さらし粉(次亜塩素酸カルシウム)
③有機性塩素剤
④電解発生装置による次亜塩素酸発生
⑤塩素ガス
残留塩素測定の種類および原理
①
ヨウ素滴定法
滴定剤であるチオ硫酸ナトリウム溶液をサンプルに滴下して発色するまで加えます。発色するまでに使用した滴定剤の量を濃度値に換算して残留塩素を求めます。
②
比色DPD法
DPD指示薬(ジエチル-p-フェニレンジアミン)をサンプルに加えると塩素によって酸化され、マゼンタ色(桃~桃赤色)に発色します。この発色の程度は塩素濃度に比例します。発色の程度を比較することから、簡単な測定方法としては標準比色盤の色と、サンプルにDPD試薬を加えて発色した色とを目視で見比べて、色が一致したと思われるところで比色盤に刻まれている数値を読み取ることにより、残留塩素濃度を測定する方法です。目視で行う方法ですので、個人誤差があることや目盛りの読み取りには限界があることから、精密な分析には適しませんが測定現場などで手軽にすぐに行える最も簡単な方法です。
③
DPD吸光光度法
上記②の原理を吸光光度法の原理の測定器を用いてデジタル数値化して読み取る方法です。発色後の桃~桃赤色を波長510~555nm付近の吸光度で測定します。 また、②、③に使用するDPD試薬には粉末、錠剤、液体試薬がありますが保管期間に差異がありますので適宜、必要に応じて使い分けます。
④
電流滴定法
残留塩素がヨウ化カリウムと反応すると、ヨウ化カリウムは酸化してヨウ素を遊離します。この遊離したヨウ素を還元剤で滴定します。残留塩素が含まれた検水中に電流滴定器の電極部を浸すと、遊離したヨウ素などの酸化性物質が含まれている場合には直流電流が流れます。この検水に還元剤を滴定していくと、徐々に電流値の降下が見られなくなった点がこの滴定の終点であり、この滴定に要した還元剤の量から残留塩素の濃度を計算することができます。サンプルにクロラミンが存在した場合、プラスの干渉を受け、正確な遊離残留塩素の測定が困難になることがありますが、その場合に電流滴定法が最適です。一般的には、電流滴定法が遊離残留塩素と結合残留塩素の明確な分離測定ができ、測定値の信頼性も高いとされていますが、亜ヒ酸を滴定液に使用することや装置が高価で、操作が複雑なことから現場での使用には普及していません。
⑤
ポーラログラフ法
残留塩素が電極表面で還元される際に電極間に流れる電流値より測定します。無試薬であり、主に連続自動測定に利用されています。
残留塩素計の種類と主な用途
①
比色式測定器
用途:水道給水末端、調理施設、プール、高架水槽等の現場測定
②
比色式測定器
用途:水道給水末端、調理施設、プール、高架水槽等の現場測定および浄水場、プール設備等における濃度制御および監視
③
電流滴定式測定器
用途:水質試験室における水質分析
④
ポーラログラフ式測定器
用途:浄水場およびプラント設備における濃度制御および監視
残留塩素計使用上の留意事項
塩素測定を行うときにサンプルを即座に検査することが重要です。水の中の塩素は不安定であり、その濃度は速やかに減少します。日光または他の強い光にさらされるか、あるいは撹拌されると塩素の減少が促進されます。したがって、塩素を分析しようとするサンプルは保管しておくことができません。
また、測定に使用する試薬は冷暗所にて保管して、保管期限内で使用することにより安定した測定ができます。
残留塩素計のメンテナンス
吸光光度式の場合、サンプルセルに汚れが付着しないように常に清潔にしておく必要があります。
ポーラログラフ式は、電極の感度を下げないようにビーズ洗浄や電気化学的な洗浄を行う必要があります。